2019年3月12日火曜日

高齢者高コレステロール血症治療推奨再考

Reexamining Recommendations for Treatment of Hypercholesterolemia in Older Adults
Neil Skolnik
JAMA. Published online March 11, 2019. doi:10.1001/jama.2019.1676
https://jamanetwork.com/journals/jama/fullarticle/2728377

Recommendations for Treatment of Hypercholesterolemia in Older Adults
高齢者における高コレステロール血症の治療に対する推奨

2018年ACC/AHCガイドライン( American College of Cardiology (ACC)/American Heart Association (AHA) guideline on the management of blood cholesterol )では75歳以上ではLDL-C 70-189 mg/dLの時、中強度スタチンがreasonableとしている。

AHA/ACC/AACVPR/AAPA/ABC/ACPM/ADA/AGS/APhA/ASPC/NLA/PCNA guideline on the management of blood cholesterol: executive summary: a report of the American College of Cardiology/American Heart Association Task Force on Clinical Practice Guidelines.  J Am Coll Cardiol. 2018;S0735-1097(18):39033-39038. doi:10.1016/j.jacc.2018.11.002
このクライテリアに基づく全患者にスタチン導入されると、この年齢群へのスタチンベネフィットのエビデンス不足しているのにかかわらず、高齢者1800万人がスタチン関連副作用リスクに晒されることになる。そもそも75歳を超える患者ではスタチン治療RCTエビデンスはそれほどstrongではない。開始時のリスクに年齢が含まれており、年齢と共にリスクとして計算され、リスクスコアが年齢に支配されている。年齢は住民コホート集団では強力なリスク要素だろうが、個別的なリスクを果たして反映するのだろうか、また、治療効果まで検討した場合に選別上の個別リスクとして年齢は適切なのだろうか?


米国内ガイドライン要約化推奨はサポートしているエビデンスの解析と一致している。ガイドラインは、バイアス無く、曖昧性をできるだけ最小化するべきもの。ACC/AAHガイドラインは75歳超の一次予防を支持するエビデンス不足している、さらにはLDLコレステロールカットオフを支持する治療閾値として 70 mg/dL超を設定するエビデンスは存在しない。治療推奨対象が住民で何パーセントとなるかの要素にもなるので治療選別と年齢閾値はクリティカル

糖尿病無しの8つの一次予防トライアルでは、平均登録LDLコレステロールは 140 mg/dLであり、 70 mg/dLではない。LDL登録コレステロール値が低い唯一の一次予防研究はJUPITERトライアルで、これはhsCRP濃度を含むエントリー登録クライテリアとなっている。実際には、被検者登録時年齢平均66歳、LDLコレステロール 108 mg/dLでACC/AHA推奨より年齢若く、LDL高値の登録となっている

広くpolicy推奨を考えるとき、65歳前後での高コレステロール管理比例ベネフィット差の認識が重要。65歳超成人のベネフィットのエビデンスは、75歳超では適応されないし、一次予防のスタチンベネフィットを示す臨床トライアルデータは75歳超では適応されない


プロスパー試験では、75歳以上の平均年齢(N = 5804;試験登録時の平均年齢、75.4歳)の患者に対するスタチン治療の唯一の試験で、平均登録LDLコレステロール値は147 mg / dLであり、これはACC / AHAガイドラインでスタチンが推奨されているLDLコレステロール閾値の2倍この試験では、2565人の参加者(44%)が血管疾患を発症し、二次予防を試みました。血管疾患を持たない患者の一次予防コホートでは、冠動脈死、致命的でない心筋梗塞、および致命的または致命的でない脳卒中の複合評価項目に対するスタチンの有意な利益はありませんでした。


Shepherd  J, Blauw  GJ, Murphy  MB,  et al; PROSPER study group. Pravastatin in elderly individuals at risk of vascular disease (PROSPER): a randomised controlled trial.  Lancet. 2002;360(9346):1623-1630. doi:10.1016/S0140-6736(02)11600-XPubMedGoogle ScholarCrossref


ACC/AHAガイドラインでのエビデンスでは75歳超での死亡率へのスタチンのベネフィット示せない一方、有害性を示し、死亡率増加確率の可能性すらある

Han  BH, Sutin  D, Williamson  JD,  et al; ALLHAT Collaborative Research Group.  Effect of statin treatment vs usual care on primary cardiovascular prevention among older adults: the ALLHAT-LLT randomized clinical trial.  JAMA Intern Med. 2017;177(7):955-965. doi:10.1001/jamainternmed.2017.1442

観察研究では75歳超・糖尿病なしの場合の一次予防観察研究でスタチンのベネフィット認めず、28のRCTのメタアナリシスでは、75歳超を含む高コレステロール血症・血管疾患存在下の全年齢群ではスタチンの有意なベネフィット示した。血管疾患病歴無し(即ち、一次予防)では年齢と共にスタチン使用による比例的リスク減少効果認めなくなり、70歳超で有意なベネフィット消失。

AHA / ACCガイドラインでは、75歳以上の成人でスタチン治療をいつ中止するかについて言及していません。患者が年をとるにつれて、多くの薬物治療を必要とする複数の併存症を患う可能性が高まります。価値を最大化し、悪影響を最小限に抑えるために各薬の重要性を比較検討することは臨床医には必須。継続的な薬に関する決定は定期的に見直されるべき。決定は、利益対害の証拠、ならびに患者の価値観および好みによって知らされるべきであり、そして決定は、共通の意思決定を強調するアプローチを通して決定されるべきである。

スタチンによる予防治療をいつ中止すべきかの意志決定はいくつかのカテゴリーに分かれる。
重度認知症あるいは他の疾患で生命予後限られている場合を含めfrail older patientsが最初のカテゴリで、これら患者は薬剤中止を考慮
2つめのカテゴリーは、心血管疾患あるいはイベント既往患者の二次予防のためのスタチン使用。二次予防で、ベネフィットが観られるwindowは約2-3年間。再発動脈硬化性疾患予防が患者・家族のゴールである限り、二次予防のためのスタチンは継続
3つめのカテゴリーは、75歳超の糖尿病患者。この群ではランダム化データ存在しない。観察研究で、80歳超を含めたこの群での中止が支持されている。
・4つのめのカテゴリーは75歳以上の健康者で一次予防のためのスタチン治療。エビデンスが不足していること、ベネフィット尤度が年齢とリスク要素で左右され、エビデンスの不確実性について適切なコミュニケーションにて意志決定のシェアがなされなければならないことがこのカテゴリー群では推奨される

ガイドラインの推奨事項は、証拠と判断の組み合わせに基づく。すべての臨床医が補助文書の詳細を読むわけではないが、ほとんどが責任を持って中核となる推奨事項に従う。したがって、推奨事項の表現方法は、それらが臨床医によってどのように解釈および実施されるかに重要な影響を及ぼす可能性がある。 AHAガイドラインでは、LDLコレステロール値が70 mg / dL〜189 mg / dLの75歳以上の成人にスタチン療法を開始することが「妥当である可能性がある、しかし、75歳以上の成人はほとんどLDLコレステロール値が70mg / dL以上であるため、75歳以上の健康な成人全員にスタチン療法を推奨するガイドラインもある。ミオパチー、認知機能障害、2型糖尿病の増加の可能性、多剤併用、および健常人に医学的診断を表示することによる潜在的な影響を含む潜在的な有害作用高齢者にとって重大な問題である。

言語学的には、ワードやフレーズは、外延的(denotative)と内包的(connotative)意味を両方有する。即ち、"...であることは合理的である" と "...でないことが合理的である"が、本質的に同じ意味であることがある。内包的意味(connotative meaning)は、換言すれば、情緒的意味、言語とフレーズが有する関連性、その言葉が発するcontextにより影響されるとなる。
高コレステロール血症管理についてのガイドラインを臨床医が解読するcontextにおいて、フレーズ「...治療することが合理的」は、LDL 70 mg/dL超高齢者治療がactionする方向性として推奨することを意味してしまう。しかし、ガイドラインを単純に遵守するのではなく、各患者のケアのcontextにおいてクリティカルに評価し、解釈する義務がある。


75歳以上の成人におけるスタチンの使用の推奨は、推奨が各個々の患者のニーズに最もよく合うように、リスクと利益、そして嗜好と価値についての共通の意思決定を通して最適に決定されるべき






日本の後期高齢者の健康診査において、脂質異常当然の如く項目として含まれる

論理的思考のできない(させない)日本の風土が、予防・治療ベネフィットをもたらさない無駄な検診を増大させている

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