複数莢膜血清型肺炎球菌感染は稀ならず、ワクチン接種はそのリスクを低減する可能性

日本における成人肺炎の疫学~Adult Pneumonia Study Group-Japan多施設前向き研究 第一報~ | 文献情報 | J-GLOBAL 科学技術総合リンクセンター (jst.go.jp)

このトピックで既知なのは

⇒肺炎球菌は，成人では複数の血清型が同時に鼻咽頭に定着し，侵襲性疾患を引き起こす可能性がある。   

⇒成人の肺炎球菌肺炎患者における複数の血清型肺炎球菌の有病率や関連するリスクファクターは不明

この研究で新たに判明したことは

⇒ 23価肺炎球菌多糖体ワクチン接種者は、単一血清型肺炎球菌に比べ、多重血清型肺炎球菌の罹患リスクが低いことが初めて報告されました。 

本研究は、研究、実践、政策にどのような影響を与える可能性があるか 

⇒ 23価肺炎球菌ポリサッカライドワクチンが提供する多型肺炎予防に関するさらなる研究の必要性を強調し、今後の肺炎球菌ワクチン政策に影響を与える可能性があります。

High prevalence of multiple serotypes of pneumococci in patients with pneumonia and their associated risk factors 

Bhim Gopal Dhoubhadel,et al,  Adult Pneumonia Study Group-Japan (APSG-J)

https://thorax.bmj.com/content/thoraxjnl/early/2022/04/25/thoraxjnl-2021-217979.full.pdf

背景 肺炎球菌の複数血清型は，非ワクチン血清型の出現や抗菌薬耐性の獲得など，疫学的および臨床的に重要な意味を持つ。成人における肺炎球菌の複数血清型の有病率およびそのリスクファクターは不明である。

方法 日本全国の4つの病院において，放射線学的に肺炎が確認された15歳以上の成人患者を登録した。肺炎球菌性肺炎は，lytA定量PCR法による喀痰中の肺炎球菌の菌密度が10^4/mL以上で定義し，血清型を決定した。血清型が1つの肺炎を単一血清型肺炎，2つ以上の血清型を持つ肺炎を複数血清型肺炎と分類した。多変量ロジスティック回帰を用いて危険因子を評価した。

結果 3470人の患者（年齢中央値77歳、IQR65-85）が登録された。肺炎球菌性肺炎は476例（18.3％，n=2605）で確認された。そのうち42%で複数の血清型が検出された。 

23価肺炎球菌多糖体ワクチン（PPSV23）ワクチンの接種を受けていた患者では，複数の血清型を持つリスクは低かった（調整済みOR 0.51（95% CI 0.27～0.94））。 

複数血清型分布における非PCV7 PPSV23血清型の割合は67.4％（n=324/481）であり、単一血清型分布における46.4％（n=128/276）だった（p=0.001）。 

血清型5，9N/9L，10A，12/22/46，17F，35Fは複数血清型肺炎に，血清型6A/6B，23F，11，6C/6Dは単一血清型肺炎に関連することが示された． 

また，より侵襲性の高い血清型（血清型1，5，7F，8）の比率は，複数血清型肺炎で有意に高かった（p＝0.001）．

結論 成人肺炎患者の喀痰には，複数の血清型肺炎球菌が混在していた。PPSV23ワクチン接種者における複数血清型肺炎球菌肺炎のリスクは，単一血清型肺炎球菌肺炎のリスクより低い。

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複数莢膜血清型肺炎球菌感染はまれではない。よりリスキーな状況を生み出す可能性があるらしい

論文序文記載

Real-time PCR法は，感度の向上と所要時間の短縮から，喀痰中の肺炎球菌を診断する方法として定着してきた。肺炎球菌には少なくとも98の血清型があり，侵襲性（髄膜炎，菌血症など）および非侵襲性（肺炎，副鼻腔炎，中耳炎など）の疾患の原因となる可能性がある。一般に単一血清型による感染症が報告されているが，これは従来の培養・同定法の限界によるもので，2つの血清型による同時感染症も報告されている。60歳男性の髄膜炎では，脳脊髄液から血清型9Vと血清型7が分離された．また，10カ月児では，髄液から血清型23B，血液から血清型23Fが分離された．

肺炎球菌は高度に組換え可能な菌であり，2つ以上の血清型が存在する場合，宿主との適応，薬剤耐性，バイオフィルム形成，ワクチン非接種血清型の出現に関わる遺伝物質の交換が可能であり，治療失敗やワクチン効果の低下につながる可能性がある。