2019年5月17日金曜日

"Muco-Obstructive Lung Disease"、粘液閉塞性肺疾患(?)

"Muco-Obstructive Lung Disease"、粘液閉塞性肺疾患(?)

粘液閉塞性肺疾患
Muco-Obstructive Lung Diseases
粘液閉塞性肺疾患この総説では,粘液産生の正常な機序と,気道粘液の過剰産生を特徴とする頻度の高い病態,たとえば慢性閉塞性肺疾患(COPD),囊胞性線維症,非囊胞性線維症性気管支拡張症では,粘液産生の機序にどのような異常が生じているのかについて論じる.
May 16, 2019
N Engl J Med 2019; 380:1941-1953
DOI: 10.1056/NEJMra1813799


COPD、嚢胞線維症、原発性線毛機能不全症候群(primary ciliary dyskinesia)、非嚢胞性気管支拡張の特徴で、喘息を含むかどうか異議あり

健康者では、適切な水分状態の粘液層が末梢気道から気管へ迅速に輸送(毎秒 約40 μmの速度)される。この病態だと、イオン・液輸送、ムチン分泌、その両者の組み合わせが生じ、濃縮(脱水)粘液、ムチン移送の障害、気道表面への粘液adhesionが生じる。
気管に集まった粘液はphlegmaもしくは喀痰として咳嗽により排出される。
小気道の粘液は咳嗽により排泄されがたいため蓄積し、"nidus"を形成し気道閉塞、感染、炎症をもたらす

ヒト気道粘液は、加水ゲル(水 98%、塩 0.9%、球状タンパク 0.8%、高分子重量ムチンpolymer 0.3%)からなり、粘液の水分状態(濃度)は粘液のwet-to-dry成分(不揮発含有固形物の一定容積での%比率)として測定、あるいは、光散乱法(Light Scattering: LS)にてムチン濃度測定で評価。2つの測定方法の相関性は健康者でもmuco-obstructive disease患者で高く、粘液特性記載として両者用いられる。
呼吸器系ムチンとして2つのmajorな合成・分泌される、MUC5BとMUC5ACは生理学的にsingle polymerとしては巨大で0.2 to 10μmにも及ぶ、分泌されたムチンポリマーは織り込まれメッシュ様ゲルを形成し、濃度依存的にメッシュサイズが決まる(i.e. 高濃度ほど小さなメッシュサイズ)。MUC5BもMUC5ACも多くの共通特性が有り、多量体構造物で、多くの炭水化物を含む(総重量の約75%)。違いはtranscriptionの調整でMUC5BとMUC5ACの機能の違いとなる。マウスのデータからはMuc5bはbasal mucocilliary transport(基底粘液繊毛輸送)が必要で、Muc5acは外的ストレスに反応し、ヒトでのそれと性質類似。ヒトの正常末梢気道ではMUC5Bが主要ムチン( 10:1 over MUC5AC)
ムチンの生理学的特性は、ポリマー物理から予測され、粘液の粘弾性特性だけでなく、生物物理的特性も、粘液の浸透圧、adhesion、cohesion、friction(滑り摩擦)を含め記載されている。 (勝手に注記: adhesionは異種分子間の接着、cohesionは同種分子間の接着)
粘液特性は濃度の比較的経度変化でも粘液の生物物理的・輸送特性へ影響を与えることも考慮し、高濃度では劇的にtransportabilityが減少する可能性がある。加え、ムチンゲルの特性は、ムチン間ポリマー相互作用を形成し、比較的長い結合半減期、"sticky"なポリマーゲルを形成し、粘性特性は濃度8倍までのスケールとなる
ムチン濃度は4つのmuco-obstructive disease(COPD、のう胞性線維症、原発性線毛機能不全、非嚢胞性気管支拡張)で異常増加し、pathogenesisにもムチン濃度の増加は役割を一定果たしている。MUC5AC濃度は増加し、ユニークに粘液特性に影響を与えるが、MUC5Bがこれら疾患では濃縮されdominantである

ムチンは全ての気道表面で連続し、繊毛活動により咽頭へ運ばれる、大きな気道(気管)と小さな気道(細気管支)気道ではMUC5ACが分泌されると思われるが、大気道の粘膜下腺はMUC5Bが分泌されると考えられているが、これはマウスモデルのデータからのreformulationである。ヒト大気道・小気道ともに表層性上皮はMUC5Bを分泌、tonicあるいは咳嗽によりMUC5B分泌が気道MUC5B分泌に上乗せされ、肺へのストレス・トリガーが表層上皮MUC5AC発現のトリガーになりえる。MUC5AC分泌は表層性気道分泌(club)細胞へsuperimposeされ、基底のMUC5B分泌のcompetentとなるという報告がある

顕微鏡的レベル:粘液層-繊毛トポグラフィー
粘液繊毛クリアランスの以前の記載は線毛周囲の水の多い層(liquid layer、sol layer)の上で、粘液層(gel layer)が移動すると古典的記載であったが、mucus layerとpericiliary layerの2つのゲルからなる粘液繊毛構造として置き換わり記載されている
periciliary layerは、密なゲルで、glycopolymerとして、MUC1、MUC4、MUC16ムチンを含め、上皮細胞表面と繊毛にtetherしている。重大なコンセプトとしてこの構造は、粘液繊毛クリアランス装置は2つのpolymer hydrogelからなり、hydrationを競うといういこと。この作用で、polymer-gelを加水し、water-drawing powerとして、hydrogelの浸透圧が記載される。実験的測定だと、2%のsolidからなる正常の粘液層の浸透圧は約100 Paで、繊毛周囲層はさらに濃縮され浸透圧約500Paとなる。健常者の繊毛周囲層の浸透圧がより高いため加水が十分で、繊毛活動性のため適切な潤滑性が保たれ、粘液上層の移送として適切となる。

上皮イオン輸送と粘液加水
two-gelモデル:2層ゲルモデルでは粘液層濃度(水和)と粘膜繊毛輸送の効率との間の相互作用に関する定量的予測を可能にする。 これらの予測は、粘液層と繊毛周囲層がその下支えする気道上皮による水移送に反応するか理解するための最良の理解法である。健常者では、気道上皮はイオンや水の分泌・吸収可能でそれは同時に起きるのだろう。正常気道表面加湿(加水)の維持は繊毛の粘液層濃度のmechanosensingにより行われ、繊毛細胞による気道表面へのATP遊離を調整し、イオン輸送、水輸送速度をfine-tuningしている。
加水状態が正常でなされている、solid 2%、水 98%では、粘液層は粘膜輸送の効果的なfluid bufferとして働く。しかし、muco-obstructive diseaseでは、異常な上皮水吸収により気道表面の水分不足し粘液濃度増加、粘液層の浸透圧が増加し線毛周囲層の浸透圧を凌駕する。ある程度濃縮された粘液は繊毛をcompressし、粘液輸送を遅らせるが、一方、さらに重度濃縮の場合は、繊毛を平坦化し、粘膜のうっ滞、adhesionをもたらす。かように two-gelモデル形成は粘液の濃度から粘液繊毛輸送速度を予測し、加水状態の小さな変化がなぜ生じるかも説明できる(2% vs 8% solids  )


咳嗽
繊毛依存粘液クリアランス不能に陥ると、咳嗽がバックアップのクリアランスメカニズムの役割を果たす。繊毛依存、咳嗽依存クリアランスともに失敗するとmuco-obstructive diseaseが生じる。繊毛依存粘液移送のように、粘液濃度が、friction、viscosity、cohesion、adhesionといった咳嗽依存輸送関連粘液特性全般の鍵となる要素となる

Pathogenesis of muco-obstructive disease
粘膜閉塞性肺疾患の重要な特徴は、疾患の不均一性です。つまり、正常な肺の領域と、同じ肺の中に重度に罹患している他の領域があります。気管支拡張症は、肺のコンピュータ断層撮影(CT)でよく見られる所見です。しかしながら、粘膜閉塞性疾患を統一する一般的な特徴は、病理学的検査、マイクロコンピューター断層撮影法、および肺機能検査によって証明されるように、小さな気道(細気管支)における疾患の早期の徴候である。メカニカル(粘液)クリアランスと気道上皮から粘液に分泌される抗菌タンパク・ペプチド による防御が気道感染に対しなされる。抗菌分子・細菌感染replicationを抑制する抗体の能力は時間単位という短命。その結果、動的な「horse race:競馬」が肺内でなされ、機械的な(粘液性の)細菌クリアランスの速度に対して内因性の抗菌抑制に対する細菌耐性の獲得の速度が低下する。しかし、クリアランスを遅らせるだけでは、おそらく病気を引き起こすのに十分ではありません。粘液層がストップすると、mucus plaqueが形成され気道内腔にplug形成し、muco-obstructive diseaseを形成する。 動物モデル研究では、muco-obstructive diseaseのfull spectrumである気道閉塞・炎症・間歇的感染は、粘液濃度依存的なplaqueやplugの形成とともに観られるが、粘液繊毛クリアランス欠損単独では観られない。 気道における粘液斑または栓の形成は、新たに分泌されたムチンの不十分な上皮水和と併せて、しばしばウイルス感染または吸引によって刺激されるムチン分泌の増加を反映する高濃度の静的粘液plaqueが形成されると、双安定ポジティブフィードバック(「悪質な」)粘膜炎症サイクルが開始されます。最終的に、好中球エラスターゼの気道レベルの上昇に通常関連する重症または持続性の粘膜閉塞は、これらの疾患に典型的な気管支炎性病変から気管支拡張性病変または気管支拡張性病変への進行を促進する。 
細菌感染は、粘膜閉塞性肺疾患の一般的な特徴です。 嚢胞性線維症または他の粘膜閉塞性疾患を有する患者からのデータから粘膜閉塞性肺疾患における感染の主な部位は、気道上皮細胞表面ではなく、管腔内粘液plaqueおよびplugであることを示している。 粘液plaqueを介して下層の活発に代謝している上皮細胞への酸素拡散が制限されると、粘液plaque内に低酸素領域が生じる。 嚢胞性線維症またはCOPD患者からのmicrobiomeデータの分析は、口腔嫌気性菌が粘膜閉塞肺の最初の細菌性病原体であることを確認した。 これらのデータは、"mouth-lung aspiration axis"(口-肺吸引系)、口腔嫌気性菌低酸素状況粘液plaqueへ感染し、細菌感染早期となるという多くのmuco-obstructive diseaseの統一概念となる可能性。 嫌気性菌は低酸素性の粘液環境を改変して、粘液濃度に反応して凝集物(aggregate)またはバイオフィルムとして増殖する古典的な病原体(例、緑膿菌)による侵入を促進することができる。粘膜閉塞性疾患患者から得られた痰試料中の口腔咽頭フローラが、古典的な病原体と同様に治療を必要とするかどうかを立証するために将来の研究が必要である。
急性増悪
増悪は粘膜閉塞性疾患の典型です。増悪は、患者の幸福に対する認識の変化、健康管理の模索、または健康管理によって実施される患者の治療計画の変化として広く定義される。全ての粘膜閉塞性肺疾患において、疾患重症度の全体的な進行率(例えば、肺機能の喪失)はおそらく急性増悪の発生率および重症度によって大きく影響される。すべての粘膜閉塞性疾患に共通して、過去の増悪率および胃の誤嚥は将来の増悪率の予測因子であり、すなわち、過去の増悪が多い患者はそのような病歴のない患者よりも将来の増悪を有する可能性が高い。 増悪が既存の不均一粘膜閉塞性肺疾患に重なっていることに注意することが重要。以前の研究は、恐らく遺伝的漂流または局所的環境への表現型の反応による細菌の変化を反映して、いくらかの悪化が既存の病気のある地域の病気の激化によって引き起こされることを示唆している。しかしながら、増悪に関連する新しい身体的所見は、多くの増悪が以前には罹患していなかった領域への疾患の拡大に関連することを示唆している。広がるための一般的なメカニズムは胃の吸引かもしれない;この概念はCOPD、非嚢胞性線維症、気管支拡張症、または嚢胞性線維症の患者からのデータと一致している。
おそらく、拡散の主な要因は、上気道から肺に吸引されたウイルスです。拡散メカニズムは、嚢胞性線維症または非嚢胞性線維症の気管支拡張症の患者からのデータと一致しており、マイクロバイオームは増悪時にほとんど変化しないことを示している。臨床的には、悪化は肺機能の永久的な喪失を制限するために激しく治療されなければならない。

COPD
COPDは、ほとんどの場合吸入された環境物質に反応して、持続的な気流の閉塞として現れる。 COPD患者から得た気道下部サンプルで高濃度粘液が報告され、粘液濃度の上昇は粘膜繊毛除去率の低下と相関している。COPD患者を対象とした大規模コホート研究からのデータはCOPDの主要な引き金を示唆する。たばこの煙は、ムチン濃度の上昇と関連。さらに、このコホートでは、ムチン濃度の増加と気道閉塞の減少および増悪率の増加との間の関連性によって示されるように、喀痰中のムチンの高濃度が疾患の重症度と関連していた。COPD(すなわち、ほぼ正常な肺機能を有する者)、彼らの疾患の急速な進行の危険性があることが示された。
COPDで粘液の高濃度化を引き起こす気道上皮の障害は複雑。喫煙smoke暴露により、CFTR transcription速度の減少によるoxidant誘導CFTR減少を介した -介在塩素アニオンの分泌の異常を生じ、apical membraneのCFTRタンパクへの直接障害も生じる。さらに、細胞外nucleotideが増加し、nucleoside代謝が細胞外ATPやアデノシン濃度を減少し、気道表面の加水のpurinoceptor regulationの障害を意味する。この上皮イオンや水分輸送(加水)障害は喫煙smoke誘導MUC5AC、MUC5B過剰分泌による増幅される。 ムチンの過剰分泌はCOPDにおいて特に重要である可能性があります。なぜなら、CFTR機能障害のため、同時放出されるアデノシン二リン酸、アデノシン一リン酸、およびアデノシンの代謝が促進されるためです。COPD患者を特徴づけるムチン高濃度は、おそらく粘膜閉塞性疾患の分類における最も軽い例です。 COPD患者はまた、特に気管支拡張症およびシュードモナス感染症の発生率が低いという点で、重症の粘膜閉塞性気道疾患が最も少ない傾向がある
 
非嚢胞性線維症性気管支拡張
非嚢胞性線維症気管支拡張症は、単遺伝的原因がない場合の気管支拡張症によって定義される表現型です。非嚢胞性線維症の気管支拡張症は現在CT上の拡張気管支によって通常定義されているが、古典的な病理学的研究は、この症候群における気管支拡張症、粘液栓塞、および炎症を含む重症小気道疾患を強調している。これらの病理学的所見と一致して、非嚢胞性線維症気管支拡張症には、粘膜閉塞性疾患の典型的な小気道気道低損傷がある。非嚢胞性線維症の気管支拡張症は、おそらく環境ストレスと遺伝的宿主防御リスク対立遺伝子との間の相互作用を反映しており、気管支拡張症は最終的な共通経路として考えられる。 遺伝学的研究は、非嚢胞性線維症の気管支拡張症は、異常な粘膜宿主防御、免疫機能、または結合組織を含む一連の遺伝的リスクと関連していることを示唆する。非嚢胞性線維症気管支拡張症患者から得られた痰が高濃度であるという最近の報告は、ムチン水和の調節における上皮の欠陥が疾患の病因に寄与しているかもしれないことを示唆している。現在、遺伝子研究はイオン輸送遺伝子と非嚢胞性線維症の気管支拡張症とを結び付けていない。直接測定により、CFTRはCFTR変異のない非嚢胞性線維症の気管支拡張症の患者で通常機能することが示唆されている。非嚢胞性線維症気管支拡張症患者のミクロビオームは、口腔嫌気性細菌、ブドウ球菌、インフルエンザ菌を特徴とする粘液閉塞性疾患の典型であり、患者の約15〜20%が緑膿菌陽性である。これに関連して、非嚢胞性線維症の気管支拡張症は初期の嚢胞性線維症に似ています。非嚢胞性線維症気管支拡張症の患者は、非結核性マイコバクテリア感染症の発生率が他の粘膜閉塞性疾患の患者の発生率より60%高い可能性がある。この所見は、非嚢胞性線維症気管支拡張症における免疫不全アレルの潜在的な役割を示している。

診断
疾患特有の基準は、各粘膜閉塞性肺疾患の診断に役立つ。
嚢胞性線維症:汗中の塩化物陰イオン濃度、および遺伝子検査。
COPD:暴露歴および肺活量測定について。
原発性繊毛ジスキネジア:鼻一酸化窒素測定、繊毛波形分析、および遺伝子検査。
非嚢胞性線維症性気管支拡張症に対してはCTスキャン。
粘膜閉塞性疾患の一般的な診断を下すためのツールも有用。
咳嗽、喀痰産生、急性増悪回数に関する患者関連アウトカムを一般的呼吸系アンケートで入手
喀痰炎症精細胞、サイトカイン、ケモカイン測定は気道粘液閉塞性の炎症性コンポーネント確立のため有益
粘液濃度(%solids)および総ムチン濃度の測定もまた診断ツールとして検討。例えば、喀痰中のムチン濃度は、患者関連の転帰データによって定義される慢性気管支炎の症状と有意に関連しており、ROC曲線分析ではムチン濃度がCOPDの優れたバイオマーカーであることを示唆している。


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